新企画「海外NOW」シリーズ 第一弾 吉田修作会員

謹賀新年

 

 新企画として「海外NOW」シリーズとしてヘボン経済人会にてスピーカーの方にお話して頂く予定でおりましたが、今般の新型コロナウイルス拡大が続き会合開催が出来なくなりヘボン経済人会ホームページにて会員、明治学院関係者の皆様に限定してお読み頂ければ幸いです。

 今回は「海外NOW」シリーズの第一弾として1981年経済学部卒業の吉田修作会員に「上海NOW」をホームページ上にてお話を聴かせていただきます。

 

              2021年1月14日                 

  明治学院大学ヘボン経済人会 総務財務委員会  柏原 明

 

 

 

 

ヘボン経済人会の皆様

 

 1981年に経済学部商学科を卒業した吉田修作と申します。卒業後はカシオ計算機株式会社に入社し、2019年6月に定年退職するまで勤務しておりました。主には海外営業部門で多くの国の販路構築にあたりましたが、中国周辺が長く、香港に6年、上海に10年(2002年〜2012年)駐在しました。その間に知った方に誘っていただき、定年後の2019年6月より、再び上海にて仕事をしています。

 今回、お伝えするのは昨年7年ぶりに住んだ上海の生活のなかで感じた驚きと発見の一部です。あいにく新型コロナウィルスの影響で2020年は東京での待機が続きましたので、この内容は1年前のこととなりますが、少しでも等身大の上海を紹介できれば嬉しく思います。

 

1、まず驚いたこと

 7年ぶりに住んだ上海で感じた最も大きな驚きは、街のあちこちに日本のものが見つけられるようになったことです。

 例えば日本の食料品。以前に住んだときには伊勢丹や特定の日本人向けの店で販売されていただけでしたが、今はほとんどのスーパーやコンビニで見つけることができます。日用品も豊富。ユニクロは20店以上があり、無印良品、ダイソーなども大人気です。日本食レストランも増えました。街のどこに行っても少し探せば日本料理店を見つけられます。最も有名なのは虹橋地区の金虹橋商城にある『Jタウン』。混合のモールですが、そこは日本食のレストランと日本の製品ばかりを売る商店でほとんどが占められ、上海でも人気スポットの一つとなっています。「大勝軒」「鳥元」「すき家」「Tully’s」「ミスタードーナツ」にトンカツ専門店、たこ焼き店、居酒屋、更にはうなぎ専門店まであり、全部で20店以上が軒を連ねています。お値段はランチで40元程度(約550円)、夜は200元から300元程度(3,000円から4,500円)で食べられます。

 驚きは、どの店も顧客の9割以上が中国人で占められていることです。日系スーパーの「アピタ」には日本と近い品揃えがありますが、そこでの買い物客もほとんどは中国人。さまざまな日本食店も中国人で占められています。日本食店や日本の日用品店が日本人駐在員とその家族を対象としていたのは過去のことになっていました。日本の食・物を楽しむところは上海人が日常的に楽しむ場所に進化し、規模と種類は桁違いに発展していたのです。

 

2、日本観

 なんでこんなに変わっちゃったの?二度目の上海生活が始まったときにはおどろいてばかりでしたが、答えはすぐに分かりました。会社の運転手が私に「東京から来たの?去年、家族で東京と大阪に行ったよ。日本は良い、大好きになった。また行くよ。」と言ったのです。運転手の給料は高くありません、でも家族で日本旅行!ビックリです。さらに、他の中国人が「ヨーロッパに行った、アメリカも行った、アジアの国もいろいろ行った。でも一番良かったのは日本。日本はどこも綺麗で清潔、食べ物も美味しい、人は親切で優しいし日本だけは何度でも行きたい。」と言うのです。その後、似た話をたくさんの上海人から聞きました。みなさんご存知の通り、コロナ前の銀座や秋葉原、大阪の道頓堀は中国人観光客で溢れていましたね。そこに行った膨大な数の中国人が、体験的に日本を好きになっているのです。日本で食べた料理、日本で買ってきた日用品など、それらを上海でも食べたい、買いたいとうよう需要が高まり、形になっているのです。上海は地理的に日本に近いこともあり、そうした変化が顕著に現れていると思われますが、上海の人たちの持つ日本への距離感がグーっと近くなっているように感じました。

 

3、物価

 さて、日本好きな人が増えた中でも、若い女性には特に多いようです。中国人女性スタッフが言いました。「日本は買い物が安い!また今年も買い物に行くんだ。」皆さんの感覚として、“日本は安い”という言葉に違和感を覚えるかもしれません。でも、実は今の上海の物価は、日本のより高いと感じることが多くあります。市場でバラで売られている野菜や肉・魚などは安いけど、パッケージに包まれでコンビニやスーパーで売られている製品(パン、クッキー、牛乳、調味料、等々)のほとんどは、日本より高いと感じました。コンビニで売られている牛乳の1Lは12元〜22元(190円〜350円)、食パンが1斤8元〜12元(140円〜200円)、ワインもたくさん売られていますが、どれも100元(1550円)以上ばかりです。特に女性の化粧品や、衣服などは価格差が大きいようです。原宿や渋谷で数千円で買える衣服や靴は、デザインも素敵で品質もしっかりしている。同等の商品を上海でゲットするには数割は高く払わなければならないし、種類も少ないと言っていました。

 

4、収入

 この背景には、中国人の平均給与が大幅にアップしていることがあります。非常にざっくりとご紹介しますと、10年前には20代の営業スタッフの月給は5,000元、30代のマネージャーが10,000元程度の感覚でしたが、今はそれぞれ倍増して10,000元(約17万円)、20,000元(約31万円)程度となっています。中国は一般的に能力給で、若くても優秀な人の給与はその数倍となります。若くても部長クラスになれば年収100万元(1,550万円)も珍しくありません。さらに共働き。子育ては親が請け負い、若夫婦はともに正社員として働くのが一般的です。男女の給与水準は同じなので家庭総収入では同年齢の日本人の平均を超えているかもしれません。とにかくお金持ちの人が増えたなあ、と感じさせられました。物価もそれにあわせて上がってきているのです。

 上海には急速な経済成長の中でベンチャーを成功させている若手経営者や、高額で欧米企業に雇われている高学歴者も多く、それらも物価を押し上げている要因かもしれません。

 また蓄えを得たビジネスマンの多くが不動産(マンション)に投資しているケースが多いこともあります。私の以前の部下で40歳くらいの者たちはほとんどがマンションを2〜3件持ち、大きな副収入を得ています。東京で中古マンションを購入した者までいるのには驚きました。今の上海のマンション価格は東京の2倍すると言われていて、東京は安いのだそうです。さらに、90年代の終わりに始まった持ち家制度により、それまで親が所属していた国営企業から、住んでいた社宅をわずかな価格(1万円とか)で払い下げられ、その後の都市開発で数千万円から億円単位のマンションに生まれ変わったという、錬金術のような恩恵を受けているケースも少なくなく、とにかく懐が暖かい人が多いようです。

 

5、教育

 さて、私は今は新世界教育集団という、中国内で日本語教育と日本への留学支援をしている中国人の会社に勤めていますが、中国の教育事情について、最後に少し書かせていただきます。

 裕福になった中国人が多いことを書きましたが、それでも彼らは私たちとは異なる大きな不安を抱えながら生きていると思います。それは仕事への不安です。社会主義の国ではありながら社会の大部分は私企業が担っており、労働者の大部分は私企業の社員です。しかし、国は国営企業を支援するのみで、私企業へのサポートは皆無。今回のコロナ禍においても、政府からの私企業への支援は一切なく、多数の企業が倒産しました。また、経営者と雇用者の関係はとてもドライで簡単にリストラします。中国人間の競争は激しく、同じ会社に勤める同僚でも明日は競合相手になる危険性を意識しながら付き合っています。‘助け合い’とか‘仲間’とかは、中国人の企業風土には存在しない、というのが私の実感です。

 自分の力だけが頼り、親の切迫した気持ちが子供の教育を後押しします。都市部では幼稚園から宿題があり、小学生低学年が毎日11時過ぎまで宿題をこなすのは当たり前。宿題が少ないと親が先生にクレームを入れることもあるそうです。高校は全寮制が多く、毎日朝6時から夜の11時まで勉強させるところも珍しくありません。大学への進学率も急上昇、この10年の間に大学への入学統一テスト(高孝)の受験者は約5百万人から10百万人へと倍増しました。一流大学への進学が果たせない学生の多くは、親の薦めで海外留学へと進みます。米国、英国などの英語圏ほどではないですが日本も人気です。学部だけではなく、修士号を持って帰国できれば大願成就。ご存知の方も多いと思いますが、近年、日本の大学院(特に文系)は、学生の大半を中国人が占めているところが多くなっています。この傾向は中国の経済発展とともに、今後も続いてゆくと思われます。

 

 

 こうした学生が日本を好きになり、日本への愛情を持って活躍してくれるようになれば、良好な日中関係を促進する大きな力になると思います。皆さんの周りにも中国人の観光客や留学生がいるかもしれません。どうか優しく見守ってやってください。よろしくお願いいたします。長文を最後までお読みいただき、ありがとうございました。2021年がにおける皆様のご健勝とご多幸をお祈りしています。 吉田修作

 

 

外灘

 

スタバが世界で3番目に作ったロースタリー

 

新天地エリア

 

高級ショッピングセンター 上海環貿広場